★人間のからだにいらないものはない
メラトニンは最近非常に注目され、本でもいろいろ紹介されています。
アメリカのイェール大学病院皮膚科の医師アーロン・ラナーは、皮膚を白っぽくするホルモンの研究をしていました。皮膚の色を濃くするホルモンはい以前からわかっていて、ラーナーはそれをメラニン細胞刺激ホルモンとなづけていました。
ラーナーは今度はそれとは反対の、皮膚が白く抜けてしまう白斑症という病気の研究をしたわけですが、たまたま牛の松果体というところで、メラニンというホルモンが作られていることを知りました。
もしかしたら、人間の松果体の中にも同じ物質があるのではないかと考えたラーナーは、その抽出のために膨大な作業をくり返しました。そして、セロトニンという物質からそれが作られることを発見したのです。メラトニンの新しい道はそこから始まりました。
ラーナーが目をつけた松果体は脳の中心にあることから、近代医学が発達する前には人間の中心だといわれ、そこに霊がすんでいるのではないかとも思われていました。しかし、その後は動物実験でとり除いてしまっても影響がなかったことから、あまり役に立たない、遺残物だということになっていました。
私が医学生のころも、松果体はからだに影響があるものは特に作っていないと教えられました。松果体に限らず以前から人間のからだには、進化の途中でその役目を終え、いままったく使われていないと考えられる遺残物があると思われてきました。しかし、なにも役に立っていないと考えられた臓器が実は非常に大切な役目を果たしていたというのは、近代医学ではよくあるケースです。
胸骨の裏側にある胸腺がそうです。20数年前までは子どものときにだけ役目を果たし、大人になると無用のものだといわれていましたが、いまでは免疫機構で重要な役目をするT細胞というリンパ球が胸腺の中で成熟していることがわかっています。このT細胞は免疫において攻撃目標を見分けるレーダーのような役目を持っています。
盲腸も用がないと思われていますが、輪切りにしてみるとリンパ球がぎっしり詰まっていることから、やはり体を防御する役目を持っている可能性があると考えられています。
大脳にも何をやっているのかはっきりわからない場所があります。サイレント・エリア(沈黙の領域)と呼ばれる右前頭葉で、その領域の血管が詰まって脳梗塞を起しても、ほとんど症状が出ないのです。残念ながらまだ検出する方法はありませんが、私たちが知らない脳の機能を担っているのに違いありません。
実際、いままでなにも役に立ってと思われていたものが、いろいろな役目を果たしていることが少しずつわかってきています。私は本来、人間の体にはいらない物はないのではないかと思います。ただその作用がいまの科学では検出できないだけではないでしょうが。
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